━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
7章
コードの機能
────────────────────────────
前回6章の続きです。
ダイアトニックコードはメジャー/マイナースケールの各音
をルートに持つ7つのコードのことでした。この章ではダイア
トニックコードの機能について説明します。
ダイアトニックコードには順に、度数による名前がついてま
す。これはローマ数字と記号、数字、アルファベットと組み合
わせて表記します。これによって、キーに左右されない指定が
できて便利なのです。こんな具合です。
譜例:メジャースケールのダイアトニックコード
マイナースケールなら、3つのスケールに応じてこのように
表記されます。
譜例:マイナースケールのダイアトニックコード
ああ、またイヤな記号のオンパレードです。コードネームだ
けでも大変なのに、なんかヘンな数字まで出てきやがって、
「もう理論的なことはいい、オレは実践でいくぞ!」と決意し
た方もいるのではないでしょうか。しかし、コードネームが音
符のいらない音符であったように、度数もまたメチャメチャ実
戦的な便利グッズなのです。つーか、特にコード進行の話をす
る時に、度数がわかってないとそもそも説明自体ができないの
ですよ(これは前回触れましたね)。つまり、あるキーの中で
コードが動いている時、そのコードが主音に対して何度のコー
ドかを知る時に役に立つわけです。で、こんなことがなんで必
要かというと、コードは度数の位置によって違う機能があって、
それを知るためなんです。どんなキーにも即座に音名を当ては
めることができ、また逆に、キーに関わりない表記が可能とい
う利点もあります。
以上、コードの度数表記についてガーッと説明しちゃいまし
たが大丈夫でしょうか。
────────────────────────────
ダイアトニックコードの機能
────────────────────────────
基本的に、コードはデタラメに組み合わせて良いわけではな
く、その「接続(進行)」方法について制約を受けていること
が多いです。たとえばコード1はコード2にしか進めない、と
か、要するにコードの道順、進行法則ですな。これは大きく分
けて3通りあります。で、この3通りの性格を「コードの機能」
と呼んでいます。
1.トニック:略号<T>
Iのコード。トニックは曲のキー(調:トーナリティ)
を決める要で、キーの主音をルートに持つコードです。C
メジャーキーならC('ceg')、あるいは4音形にしてCM7
('cegb')またはC6('cega')。
トニックはどんなコードへも進めます。ちょっと気の早
い話ですが、この性格を利用して転調しまくるのは常套手
段です。
2.ドミナント:略号<D>
ドミナントはVのコードです。ほとんどの場合、V7の
形で使われます。これをテンションと組み合わせた時、非
常においしい響きとなりますが、まだ先の話です。
おや、しかし聞き覚えのある言葉ですね。コードタイプ
の所でやったドミナント7コードのドミナント。あれはコ
ードタイプを表すと同時に、コード自体の持つ機能を説明
した言葉でもあったわけです。その機能というのは「トニ
ックへの解決」。つまり、トニックに進むという意味です。
響き的に「ドミナント→トニック」の進行は「終わった感
じ」が強く感じられるものです。この原理は、ドミナント
7thコードの構成音のうち、長3度と短7度の間にできる
増4度の不安定な音程(トライトーン、G7ならfとb)の
響きが、トニックへの進行によって解消されるというもの。
これが「ドミナントモーション」と呼ばれるものであり、
ドミナントの主要な機能です。
譜例:トライトーンの解決
● 音で確認=非対応メニューです
3.サブドミナント:略号<SD>
IVのコード。ドミナントほどの不安定さはなく、かといっ
てトニックほどの安定感のない、どっちつかずのコードです。
ドミナントへ進むことが多いですが、トニックへも進むこと
ができます。4音形ならIVM7('face')またはIV6('facd')。
これら3つのコードを、まんま「スリーコード」、あるいは
「主要コード」と呼びます。これらはコードの中でとくに重要
な機能を持ちます。また、メジャーキーなら全部メジャートラ
イアド、マイナーキーなら、トニック、サブドミナントがマイ
ナートライアドが基本となります(後述)ので、これら主要コ
ードだけで、響きの上でも「メジャー/マイナー感」を完膚な
きまでに打ち出すわけです。下の譜例をにらみつつ、T、D、
SD、T、D、SDと呪文のように唱えてさっさと覚えてしま
いましょう。
譜例:メジャーキーの主要コード
メジャーキーの主要コードは譜例の通り。トライアドに1音
加えた4声コードではVのみドミナント7の形をとります。
譜例:マイナーキーの主要コード
マイナーキーには3種類のスケールがありました。扱いの面
倒なマイナーのダイアトニックコードですが、実用的な主要コ
ードを抜き出してみるとこんな感じです(線で囲ってあるもの)。
たとえばメロディックマイナーのサブドミナントはメジャート
ライアドの形をとるためマイナーキーのトーナリティを感じさ
せにくく、通常は使用を避けます。また、ナチュラルマイナー
のドミナントはただのマイナーコードであり、前述したドミナ
ントモーションの機能を果たせないため、特にV7に置き換え
て使用されます。
────────────────────────────
代理コード
────────────────────────────
以上は、トーナリティを確立する決め手となる主要コードの
説明でした。言い方を変えれば、ダイアトニックスケールだけ
で作られたシンプルなメロディなら、これらの主要コードだけ
でも、まったく問題なく伴奏が可能。しかし、ダイアトニック
コードには7つのコードがあります。では、主要コード以外の
残りの4つはどうしようもない役立たずの鼻つまみコードなの
でしょうか。そんなことはありません。
これらの構成音を見てみると、T、D、SDいずれかに近い
ため、機能的にも共通性を持ちます。つまり、主要コード以外
のダイアトニックコードはこれらの代わりに使うことができる
んです。これによってコード選びの選択肢が増えるわけで、ハ
ーモニーの色彩感という点からも拡がりを持たせることができ
ます。これらのコードを「代理コード」と呼びます。
各スケールのダイアトニックコードは、次の表のように機能
別にグループ分けできます。
○メジャーキーの代理コード
┏━━━━━━━━━┯━━━━━━━┯━━━━━━━━┓
┃ │ 主要コード │ 代理コード ┃
┠─────────┼───────┼────────┨
┃ トニック(T) │I IM7 I6 │ IIIm(7) VIm(7) ┃
┠─────────┼───────┼────────┨
┃ ドミナント(D) │ V7 │ VIIm(7)-5 ┃
┠─────────┼───────┼────────┨
┃サブドミナント(SD)│ IV IVM7 IV6 │ IIm(7) ┃
┗━━━━━━━━━┷━━━━━━━┷━━━━━━━━┛
○マイナーキーの代理コード
┏━━━━━━━━━┯━━━━━━━┯━━━━━━━━━━━━━━┓
┃ │ 主要コード │ 代理コード ┃
┠─────────┼───────┼──────────────┨
┃ トニック(T) │Im Im7 ImM7│ IVm(7)-5 bIII(M7) bVI(M7) ┃
┠─────────┼───────┼──────────────┨
┃ ドミナント(D) │ V7 │ VIIdim ┃
┠─────────┼───────┼──────────────┨
┃サブドミナント(SD)│ IVm IVm7 │ IIm(7)-5 bVII7 ┃
┗━━━━━━━━━┷━━━━━━━┷━━━━━━━━━━━━━━┛
代理コードについてはこの先、「ノンダイアトニックコード」
をやる時また出てきますので、その時になって混乱しないように、
今のうちに覚えてしまうのが吉です。
(EOF)